500文字小説『夜空の魚』

『夜空の魚』

 魚は、気付くと夜空に放り出されていた。そこはとても静かで、無数の星たちが輝いていた。
 海の中と同じで上も下もなくて、前も後ろも自由で、右も左もどうでもよかった。だから、魚ははじめ、特に不便を感じなかった。進みたい方向へ進み、くるりと翻ったり、ぐるりと回ってみたりした。襲ってくる大きな魚はいなかったし、騙してくる釣り針もなかった。
 時間が経って魚はお腹が空いてきた。夜空には敵もいなかったけれど、食べ物も見当たらなかった。星を食べることができるかもしれないと一つに目をつけそちらへ泳いだけれど、どんなに泳いでも泳いでも、星は遠くにあって届かなかった。静けさは冷たさを帯びていて、魚は心細くなってきた。
 魚は泣いた。
 なぜ泣いたのかは魚自身にもわからない。寂しくて空腹で不安で、そういういろんな思いがごちゃ混ぜになって魚の目から雫がこぼれた。雫は無重力の中で丸い形をとり、ふよふよと魚の周囲を漂った。それは涙だったのだけれど、魚は見たことがなかったのでわからなかった。
 魚は涙を食べた。かすかな塩味が、魚を海へ還した。

(氷砂糖459粒)

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Author:こおり
モノカキ時は「氷砂糖」の筆名使用。
息をしたり、寝たり、食べたり、音楽を聴いたり、500文字小説を書いたりしています。
鉄の街出身、晩秋生まれの嘘詠い。

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