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500文字小説『鏡の迷宮』

『鏡の迷宮』

 踏み込むと私が目の前にいた。右手を伸ばすと彼女は左手を伸ばしてきた。上を見ると彼女も上を見て、そこには上下逆さまの私がいた。前に進んで目の前の私とガラス越しに手を触れ合うと、左に進めそうだったのでそちらへ向かう。またいる新たな私。左右逆だったり上下が反対だったり、進んで行くとそのままの私もいた。
 私は私に囲まれる。
 戸惑いながら歩いているのがよくわかる彼女たちは、ときどき私を見つめ、目を逸らし、けれどそちらには別の私がいて彼女と目が合う。私たち彼女たちは、頼りない明かりに照らされて右へ左へ、前へ後ろへ。前へ差し出すのは右手だったつもりだけれど、いつの間にか左手のような気がしていて、いややっぱり右手のような左手かもしれなくて、見ている彼女たちと見ている私が曖昧になってくる。
 行き止まり。
 引き返そうと後ろを向くとそこに道はなく。私のような私じゃない彼女たちに混ざりゆく私は、ここから、どこ、へ。

(氷砂糖402粒)

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Author:こおり
モノカキ時は「氷砂糖」の筆名使用。
息をしたり、寝たり、食べたり、音楽を聴いたり、500文字小説を書いたりしています。
鉄の街出身、晩秋生まれの嘘詠い。

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