『白い花の婦人』
その女性はしとやかで控えめで、けれど美貌は人々の心を奪い、住む世界が違うのだと私に思わせた。
彼女の頭に咲き誇る大きく白い牡丹は彼女が動くたびに微かに揺れ、つい、見とれてしまう。
「見てたわね?」
彼女は気付けば目の前にいて、戸惑う私にいたずらっぽく笑いかけた。どうしよう、どう返したら、そんなことをぐるぐるぐるぐる考えているうちに彼女は横のベンチにどっかりと座り、ポーチから何かを取り出す。
「風が強くて困るわ」
咥え煙草でも美しく見える彼女に、横に座ってもいいか訊く。
「なぜ遠慮してるの?」
ふぅっと煙を吐き出した彼女の横に座った。煙と、知らない香水の匂い。
びっくりしてしまって。
そうつぶやくと、彼女はこう返した。
「人に見てもらうためとか、ましてやびっくりしてもらおうなんて思って生きてないんだけどね」
吸い終わると彼女はすっと立ち上がり、凛とした姿勢で喫煙所を去って行った。後ろ姿も美しい人だった。
私も吸い殻を灰皿へ始末した。右手で頭に触れる。大きなつぼみ、次の春には咲くだろうと言われている。
あの人みたいな白い花びらだといいなと思う。
(氷砂糖474粒)
その女性はしとやかで控えめで、けれど美貌は人々の心を奪い、住む世界が違うのだと私に思わせた。
彼女の頭に咲き誇る大きく白い牡丹は彼女が動くたびに微かに揺れ、つい、見とれてしまう。
「見てたわね?」
彼女は気付けば目の前にいて、戸惑う私にいたずらっぽく笑いかけた。どうしよう、どう返したら、そんなことをぐるぐるぐるぐる考えているうちに彼女は横のベンチにどっかりと座り、ポーチから何かを取り出す。
「風が強くて困るわ」
咥え煙草でも美しく見える彼女に、横に座ってもいいか訊く。
「なぜ遠慮してるの?」
ふぅっと煙を吐き出した彼女の横に座った。煙と、知らない香水の匂い。
びっくりしてしまって。
そうつぶやくと、彼女はこう返した。
「人に見てもらうためとか、ましてやびっくりしてもらおうなんて思って生きてないんだけどね」
吸い終わると彼女はすっと立ち上がり、凛とした姿勢で喫煙所を去って行った。後ろ姿も美しい人だった。
私も吸い殻を灰皿へ始末した。右手で頭に触れる。大きなつぼみ、次の春には咲くだろうと言われている。
あの人みたいな白い花びらだといいなと思う。
(氷砂糖474粒)