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超短篇競作『永遠凝視者』

『永遠凝視者』

 さらさらと流れる川は、名前をひととき川と言います。

 こと、と音がしてマグカップが置かれる。紅茶の香り。
「そろそろ休んだら?」
 マグカップの中身はミルクティで、おそらくわたしの好みに合わせてたっぷりのお砂糖が入っている。右手で持ち上げ、くちびるをつける。甘い。
「その写真、この前のバーベキューで撮ったやつだよね?」
 パソコンのディスプレイを覗きこみながら訊かれる。そうだよ、と返した声は、若干そっけなかったかもしれない。疲れると夫に当たってしまうのは、よくないとはわかっている。わかってはいる。

 思い出マッピング。思い出をデータ上で再現する技術。最近はお手軽なサービスも出てきていて、本職の技術者は商売あがったりだ。私も技術者の一人。「だった」といったほうが正確かもしれない。本職での仕事は長く受けていない。
 今は捏造マッピングとでもいうべきか、虚構をデータにすることを仕事にしている。実在しない場所、実在しない人を用いて実在しない出来事を再現するのだ。

「ほどほどにね、おやすみ」
 そういって寝室に行く夫を、ひととき川氾濫時の人柱に捧げたことは、内緒。
 人柱は竜神さまの召使いとなる。

(氷砂糖492粒)
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 500文字の心臓第156回競作投稿作。
 ◎△××
 

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Author:こおり
モノカキ時は「氷砂糖」の筆名使用。
息をしたり、寝たり、食べたり、音楽を聴いたり、500文字小説を書いたりしています。
鉄の街出身、晩秋生まれの嘘詠い。

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