500文字小説『ご飯生産の日々』

『ご飯生産の日々』

 なんだかよくわからないケモノと暮らしている。
 そいつはいつの間にかうちに居ついていて、あまつさえ私の部屋に入り浸るようになった。もこもこしていて、手のひらに乗るくらい小さくて、黒いつぶらな瞳で、ふわふわのしっぽで。ネットでこいつが何なのかを調べるためにいろんな語句で検索してみたけれど、似たようなやつさえ見つからない。
 こいつには名前を付けていなくて、けれどそれで困ることはない。他人に説明することもないので。
 体臭もなく何かを食べている風でもないので、どういう仕組みなんだろうと思っていたが、あるとき突然判明した。学生時代に使っていた国語辞典をむさぼっていたのだ。むさぼっていたといっても紙を食べ散らかしていたわけでなく、辞書からいくつかの単語が消えていた。空白のページまで。もうこの辞書は役に立たない。
 もしかして、と思って日記帳の過去のページをめくってみて、やられた、と思った。単語がいくつか抜けたページがあり、ほぼ空白のページがあった。
 怒鳴ってやろうかとそいつを見ると、ペンを持つ右手にじゃれてきてしっぽを振った。あんまり可愛くて怒る気は失せた。
 でも、私は日記を書くことをやめない。

(氷砂糖498粒)

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Author:こおり
モノカキ時は「氷砂糖」の筆名使用。
息をしたり、寝たり、食べたり、音楽を聴いたり、500文字小説を書いたりしています。
鉄の街出身、晩秋生まれの嘘詠い。

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