500文字小説『もうできない』

『もうできない』

 ちょうちょ結びを生業としている。
 始めた頃は巧く結べないことも多かったし、高度なものは初めからお断りを入れたりした。
 もう中堅の結び師ともいえる今。
 ほとんどのちょうちょ結びは特に苦もなくきれいに結べるし、難しいものもなんとかちょうちょ結びの形にはできる。
 ちょうちょ結びの世界に足を踏み入れた頃に知り合った、りぼん結び師がいる。ちょうちょ結びとりぼん結び、似ているところも多くアドバイスも多くもらい参考になった。可愛がってくれるこの人を畏敬の念で見ていた。
 この人はりぼん結びの高みにいた。
 出来上がったものを見るだけでその人の仕事だとわかったし、ジャンルが違っても結び目を見る目は的確だ。
「なあ、君はもっと巧く結べるんだから、もっと高みを目指すべきだよ」
 飲みの席でいわれて、小さく、絶望した。
 私はひとつひとつ、精を込めて結んでいる。稀に満足いかないものを結んでも、それは解いて結びなおすし、どれも私の仕事だと堂々といえるもののつもりだ。
 あなたのようにはできない。
 私は転職について考えることが多くなった。
 求人票を見るけれど、ちょうちょ結び師として過ごした年月が邪魔でためらってしまう。

(氷砂糖499粒)

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Author:こおり
モノカキ時は「氷砂糖」の筆名使用。
息をしたり、寝たり、食べたり、音楽を聴いたり、500文字小説を書いたりしています。
鉄の街出身、晩秋生まれの嘘詠い。

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