500文字小説『王と占い師』

『王と占い師』

 王宮に召し上げられた占い師はずっと沈黙を続けていました。
 王はいろいろなことを訊きたかったのですが、占い師はただ黙っているだけで、帰してほしいという言葉さえも発しません。
 大臣の一人が占い師の胸ぐらを掴み、不敬である、と言いましたが、王は慌てて大臣を止めました。
「そなたが沈黙を貫くのは何か意図があってのことであろう」
 王は続けます。
「だが、そなたが本物ならば、他の国に渡られては困る。解るであろう?」
 占い師には召使いがつけられ、宮殿の中に一室が用意されました。初めのうち頻繁に占い師のもとへ大臣たちが訪れましたが、言葉を話さない占い師を怒鳴りつけるのも疲れるのか、一年の後には王が訪れるのみになりました。
 王は占い師の前でさまざまな話をしました。とても私的な話に及ぶこともありました。王は話を終えると穏やかな顔で部屋を去りました。それは毎晩続きました。
 王は密偵を使って声を潰す薬を手に入れていました。
「飲んでも飲まなくても構わぬ」
 占い師に差し出しながら王は言います。
「飲めばそなたは自由である」
 占い師は薬を飲むことなく、一生を宮殿で過ごしたと言います。国は静かながらも平穏に続いています。

(氷砂糖500粒)

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Author:こおり
モノカキ時は「氷砂糖」の筆名使用。
息をしたり、寝たり、食べたり、音楽を聴いたり、500文字小説を書いたりしています。
鉄の街出身、晩秋生まれの嘘詠い。

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