500文字小説『飲めなかったお酒』

『飲めなかったお酒』

 近頃、眠ってしまうと毎晩のように連れ出されているらしい。
 朝に目を覚ましてもいまいち疲労感が消えていないなとは思っていた。いびきでもかいているのかと妻に尋ねると、いつも一緒にあのお店に行っているじゃない、と返ってきて驚いたのだ。
 その店は僕が前を通るといつも閉まっている。外に掲げられたままのメニューを見る限り、洋風居酒屋といった感じで、何年か前からいつか二人で行ってみたいね、と話していたのだ。
「あの店、変なのよ。眠っている人が一緒じゃないと入れないの」
 何をきっかけに妻がそれを知ったのかは知らないし、どうやって僕を連れて行っているのかもわからないが、妻はすっかりその店がお気に入りらしい。
「カクテルなんかもあって、マスターがシェーカーを振ってくれるのよ」
 あなたも飲んだじゃない、と妻が言うが、その店に行くとき僕は眠っているから記憶にない。
「そうね、せっかくのデートだったのに楽しんだのは私だけだったわね」
 その晩、妻は日が落ちるとともに寝入ってしまった。連れて行ってね、と言い残して。
 さて。
 どうやって妻をその店まで連れて行けばいいのか皆目見当もつかない。

(氷砂糖484粒)

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Author:こおり
モノカキ時は「氷砂糖」の筆名使用。
息をしたり、寝たり、食べたり、音楽を聴いたり、500文字小説を書いたりしています。
鉄の街出身、晩秋生まれの嘘詠い。

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