500文字小説『薄荷ミュージック』

『薄荷ミュージック』

 子供の頃、ドロップスの缶に残ったのはいつも薄荷。白い白い薄荷。
 辛くて、ちょっと苦くて。
 甘い甘い中に紛れて、こんなのが、こんな辛いのが入っていること。意味がわからなくて。カランカランと缶を振って、中身があること確かめて。でもそれが甘いだけじゃなくて辛いかもしれないって、それはとっても理不尽で。
 怒り? ううん、哀しみ。
 大人になって、悪いこと覚えて。寒空に吐き出す煙。ふうっと吐息。メンソールの煙草、吸い込む空気はとても冷たい、目が冴える。
 スマートフォンから伸びるイヤフォン。爪先で刻むリズム。邦楽ロックはノスタルジーを歌う。リンクする記憶。呼び起される思い出。吸う息、灯る火、白い息。
 吸い終わったらミントを食べる。ドロップスではなくて小さな白いタブレット。
 辛くて、ちょっと甘くて。
 辛い辛い中に見つけ出す甘さ、こんなのを、こんなはっきりしてる物事。ほっと気持ちが落ち着いて。シャカシャカとケース振って、中身があること確かめて。そう、これが辛いだけじゃなくて甘くも感じるって、それはかすかに安らぎで。
 哀しみ? ううん、諦め。
 涙目になってしまうのは、この辛みの、せい。

(氷砂糖491粒)

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Author:こおり
モノカキ時は「氷砂糖」の筆名使用。
息をしたり、寝たり、食べたり、音楽を聴いたり、500文字小説を書いたりしています。
鉄の街出身、晩秋生まれの嘘詠い。

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