500文字小説『ある酔っぱらいの話』

『ある酔っぱらいの話』

 目を開くと空が見えた。街角のごみ溜めにいるのはいつものことだ。だが空を見上げているとは? どうしたことかとふと両手を目の前にやり、五本ずつ十本の指を数えた。スーツとやらを着ているようだ。ごみに埋もれているようだった。酒臭い。
 起き上がる。
 いつもより少し高くて、いつもよりずっと低い視界。おかしな感じだ。
 特にすることも思いつかず、ここから近い公園に行こうと歩き出した。頭がぐわんぐわんするし吐き気がある。暑くて寒い。なんだこれは。
 ここの路地を抜ければ、というところで、猫。反射的に逃げ出そうとして、慣れない脚がもつれて倒れる。痛い。猫は、けれど襲ってくるわけではなかった。ゆっくりと近づいてきて、投げ出された脚に体を寄せた。にゃあと鳴く。敵意は感じられない。
 猫はしばらくすり寄った後、こちらに来いとでもいうように歩き出した。ときどき振り返りながら。ついてゆくと、コインが落ちていた。キラキラしてとてもきれいだ。拾い上げようとするとその手は黒い翼で、驚いた猫が飛びかかってきたので慌ててばさりと羽ばたき、空へと逃げた。
 拾えなかったコインは、少し、名残惜しい。

(氷砂糖483粒)
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主催企画 #同じ骨 参加作品。
http://ice03g.wpblog.jp/kikaku/same_bone/

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Author:こおり
モノカキ時は「氷砂糖」の筆名使用。
息をしたり、寝たり、食べたり、音楽を聴いたり、500文字小説を書いたりしています。
鉄の街出身、晩秋生まれの嘘詠い。

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