500文字小説『バニラ・アイス』

『バニラ・アイス』

「いつもバニラだね」
 アイスクリームショップで私の分を差し出しながら恋人が言う。彼のカップには濃さの違う二種類のブラウン。小さめアイス。チョコレートだろうか。甘いものが好きな人と付き合うのは初めてではないけれど、わがままでこんな寒い日に冷たいものを食べたいと言ったのにちゃんと勝手に楽しんでくれることはありがたい。
「化粧っ気もなくて、たまに物足りないと思うけど、やっぱり素顔がかわいいって、俺には嬉しい」
 適当に微笑み返すと満足そうな顔をして茶色を口に運び始める。
「ゲーノージンとか、あんなケバい化粧の女は、俺、生理的に無理」
 ああいう化粧をすることも彼女たちの仕事の一つだと思うし、美意識自体も人それぞれに思うところがあるはずだ。見られることを生業にしているならなおさら。反論をいくつか頭に浮かべ、面倒くさくて白いアイスをスプーンでひと匙。ひやりと甘い。
 この人は熱いのよね。
 自身の勝手な正義を掲げて、それに添わない意見は頭が悪いと貶して。
 舌に溶ける甘さは、そっと私の怒りを落ち着かせてくれる。秋だって冬だって、この人のそばにいるならアイスクリームが食べたくなる。一番シンプルな、バニラの。

(氷砂糖498粒)

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Author:こおり
モノカキ時は「氷砂糖」の筆名使用。
息をしたり、寝たり、食べたり、音楽を聴いたり、500文字小説を書いたりしています。
鉄の街出身、晩秋生まれの嘘詠い。

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