500文字小説『フードファイター』

『フードファイター』

 目の前には白い立方体がある。白い皿に盛られている。それは絹ごし豆腐のように柔らかく、けれど豆腐のような甘味や旨味などなく、丁寧に味わいを取り除かれている。
 わたしはスプーンでそれをすくい、口へと運ぶ。もちろん美味しくなどない。ただそこにあるから、という理由で、すくい、口へ運び、すくい、口へ運び、繰り返すとそれは皿から消失する。空っぽになった皿はテーブルの隅へと積み重ねられ、新たな白い立方体が盛られた皿が目の前に置かれる。わたしはそれもまた、スプーンですくって口へと運ぶ。
 わたしがこれを食べる様子はテレビで中継されている。詳しくは知らないが、とんでもない視聴率を誇るらしい。準備された立方体を全て食べ終えると拍手喝采。今、わたしはこれをメインの仕事としている。
 街角で声をかけられることも多くなった。ありがとうありがとうと繰り返すおばあちゃんや、応援してますと言ってくれる学生さん。泣きながら握手を求めてきた若い女性もいた。
 哀しみやつらさ、絶望や怒り、そういうものを押し固めた立方体も、差し入れで貰った愛情のソースをかければ、まあ、食べられないことはない。

(氷砂糖482粒)

コメントの投稿

非公開コメント

注目情報
競走馬ロックキャンディ号の応援サイトではございませんのでご注意ください。
ブログ内検索
カテゴリ
最新コメント
最新トラックバック
プロフィール

こおり

Author:こおり
モノカキ時は「氷砂糖」の筆名使用。
息をしたり、寝たり、食べたり、音楽を聴いたり、500文字小説を書いたりしています。
鉄の街出身、晩秋生まれの嘘詠い。

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

KDP始めたよ!
RSSリンクの表示
リンク
Booklog