超短篇競作『一夜の宿』

『一夜の宿』

 山に薪刈の翁と嫗がありました。雪の日、翁は薪を売りにゆく途中で、一羽の鶴が罠で暴れているのを見つけました。周囲には点々と赤い血。可哀想に思った翁は鶴を罠から逃がしてやりました。
 寒い日でしたので薪はよく売れ、翁は白米を買って嫗のもとへ帰りました。白米で粥を作る嫗に、翁は鶴を助けたことを話しました。嫗は良いことをしたので薪が売れたのでしょうと云いました。
 戸を叩く者があります。翁が開けてやると美しい娘が立っておりました。親が亡くなり、会ったこともない親類を頼ってゆく途中、この雪で道を見失ってしまったと云います。確かに外は激しい雪で、翁は娘に泊まってゆきなさいと云いました。嫗は娘にもうすぐ粥ができるから早く火に当たりなさいと云いました。
 温かな粥を啜る娘に、嫗は蕪の漬物を出してやりました。暖まった娘の頬は桜色になり、春が来たかのようでした。食べ終わると翁は粗末ながらも布団を出してやり、娘は疲れからか、すぐに寝入ってしまいました。
 朝になるとすっかり雪は上がっており、日に雪が眩く輝いておりました。翁は娘に町までの道を教え、娘は深く深くお辞儀をしてから翁と嫗のもとを去ってゆきました。

(氷砂糖496粒)
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 500文字の心臓第146回競作投稿作。
 ◎○○○○○○○△△
 正選王獲得。

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Author:こおり
モノカキ時は「氷砂糖」の筆名使用。
息をしたり、寝たり、食べたり、音楽を聴いたり、500文字小説を書いたりしています。
鉄の街出身、晩秋生まれの嘘詠い。

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