500文字小説『イチゴ』

『イチゴ』

 想いを寄せる彼女はイチゴが好きなのだと聞いた。
 彼女がフルーツを食べていたところを思い出してみる。何度も一緒に食事をする機会はあった。残念なことに、二人きり、というのは一度もないけれど。
 ショートケーキはメロンを選んでいたように思う。焼肉店のサラダバーではパイナップルとライチばかりを食べていた印象がある。海辺でスイカにかぶりついていたことも思い出す。生ジュースは小松菜とリンゴがいいといっていた。クレープはバナナ生クリーム、アイスクリームは抹茶、パフェはチョコレートじゃないといやだといっていた。居酒屋では梅酒サワーかカシスオレンジを頼んでいた。
 どんなに思い出そうとしてもイチゴを食べている様子が浮かばない。むしろ慎重に避けているような。
 ついに告白した。
 なんとか、二人きりの状況を作り出して。
「いいよ」
 女神のような笑顔でいう。ぐっと顔を近づけられてどぎまぎしてしまう。腕を引き寄せられる。
「よろしく、ね」
 まだそんなつもりもなかった唇にそのふっくらとした唇を重ねられて。
 甘い、イチゴの味がした。

(氷砂糖454粒)

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Author:こおり
モノカキ時は「氷砂糖」の筆名使用。
息をしたり、寝たり、食べたり、音楽を聴いたり、500文字小説を書いたりしています。
鉄の街出身、晩秋生まれの嘘詠い。

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