500文字小説『夜の出来事』

『夜の出来事』

「はい、夜の電話相談室です」
 時間外ですけど、と付け加えた。長い夜を独り過ごす慰みに始めた電話相談室。まだ日は高く、明るい。
「あの、夜が来ないんです」
 弱くたどたどしい声だ。若い女性か、あるいは子供。
「どうしても、夜の電話相談室にかけたかったんですけど、どうしても、夜が来なくて」
 ごめんなさい、と相手は続ける。いつも気付いたら夜は終わってしまっているという。夜にやりたいことがあるんだそうだ。
 自分のことを話そうか悩む。私にとって、夜はとても長い。相談者の代わりに、その「やりたいこと」をしてあげてもいいんじゃないかと思ったのだ。
「やりたいことというのは?」
 しばらくの沈黙があって、相談者は小さな声で、朝日、といった。
「朝日?」
「朝日が、見たいんです」
 本で「明けない夜はない」と見た、いつも夜は来ないけれど、朝が来ていることを知りたい、と。
 朝まで電話で会話を続けることを提案し、相談者もそうしたいといった。
「ねむい」
 夕日が沈みきる前に相談者が呟き、その後受話器から寝息が聞こえてきた。空が赤から群青、黒へと変わって、私は電話を切った。
「朝、か」
 今夜はカーテンを開けたままにしようと思った。

(氷砂糖500粒)

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Author:こおり
モノカキ時は「氷砂糖」の筆名使用。
息をしたり、寝たり、食べたり、音楽を聴いたり、500文字小説を書いたりしています。
鉄の街出身、晩秋生まれの嘘詠い。

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