短歌の超短編『いいやつ』

『いいやつ』

 タケダはいいやつだ。頭もそこそこ良いし、顔もイケメンというほどではないがまずまず。人当たりもいいし、なんとも穏やかで呑気なやつだ。助力を頼まれたら滅多なことでは断らないし、真面目だし、気も利く。優柔不断だと評するやつもいるが、タケダはいいやつだ。いいやつだけど女にはモテなくて、独身貴族ってやつだけど、悲観しているようには見えない。既婚者にも変な僻みを持たずに接するし、妙に趣味や飲みに大金を使い込んだという話も聞かない。
 そのタケダから相談を受けた。なんでも尊敬していた伯父さんが亡くなって、形見分けの場で革のキーホルダーを貰い受けたというのだが、それに小さな鍵がついていたらしい。タケダは、おじさんに似合わないこの鍵はきっと誰かのものだから返さなくちゃいけないんじゃないか、と訊いてくる。伯父さんは美術館の名誉館長をしていたからその関連じゃないか、と。見せてもらうと明らかに実用ではない、アンティークを模した飾りの鍵である。当のタケダはどうしよう、どうやったら持ち主が見つかるだろう、と心配そうである。タケダはいいやつだ。本当にいいやつだ。こいつの心配を解いてやらないといけない。

(氷砂糖493粒)
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 超短編イベント「短歌・活版・パンドラの箱」の企画で書いたものです。
 選んだ短歌は
  美術館館長Tが遺したる小さな鍵についての話(石川美南『物語集』より)

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息をしたり、寝たり、食べたり、音楽を聴いたり、500文字小説を書いたりしています。
鉄の街出身、晩秋生まれの嘘詠い。

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