超短篇競作『お願いします』

『お願いします』

「ありがとうございました」
 試合前日。並んで競技場に一礼する。並んで、と言っても四人だ。うちの陸上部にはリレーをギリギリ組めるだけの人数しかいない。補欠もいないので誰か一人、足に怪我でも負ったらそれでリレーには出場できなくなる。専門は俺が一一〇Mハードル、あとの三人が一〇〇M。全員三年生。俺たちが引退すると廃部となる。
 陸上経験のあった顧問が異動になり、当時の一年生五人を最後に新入部員の受け入れを停止した。一人は練習が面倒だと辞めた。残された皆が短距離だったこともあり、俺たちは強い仲間意識を持っている。それが一番発揮されるのは、やはり全員で走る四×一〇〇Mリレーだろう。専門の練習もそこそこに、バトンの受け渡しを繰り返した。
 競技場に出入りするときは声を出して礼をする。入部したての頃は形式上のものだと思っていた。今は違う。怪我なく走れること、全力を出し切れること。それを願うのではなく、自分たちに言い聞かせるためのものだ。
 一〇〇Mの一人は勉強に専念するため明日で引退。リレーへの出場はこれが最後。全然強くないチームだけど、どこよりも大きな声で礼をしようぜ。四人で笑い合って帰路につく。

(氷砂糖497粒)
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 500文字の心臓第140回競作投稿作。
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Author:こおり
モノカキ時は「氷砂糖」の筆名使用。
息をしたり、寝たり、食べたり、音楽を聴いたり、500文字小説を書いたりしています。
鉄の街出身、晩秋生まれの嘘詠い。

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