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競作『熱くない』

『熱くない』

 近頃、妻がちょっと変だ。変というか、やたらと神経質になっている。神経質っていうのは度が過ぎなければきちんとした生活を送るのに役立つのだけれど、ワイシャツに皺一つなくピシッとアイロンがかけてあったり、床が埃一つなくピカピカに掃除されていることの恩恵よりも、僕は妻ととる夕食がひどく億劫である。
 妻の料理は、旨い。出会ったころに食べさせてもらったものから旨かったし、正直胃袋を掴まれたような結婚だ。
「今日はエビのマカロニグラタンよ」
 チーズがフツフツしているうちにとスプーンを持ったところで妻の言葉。
「あなたはどうしていつもそうなの」
 妻によればグラタンを味わうための最適な温度は65℃で、それより高いと舌が熱に鈍ってしまい、「正しい味を十分に感じ取る」ことができないらしい。冷めていくグラタンを前に、素材の味を最大限引き出すために行った調理過程を聴き、妻のお許しが出てやっと食べ始める。確かに染み渡る旨味。口の中を火傷することもない。
 食事を終えると妻は無言で食器を洗う。それは丁寧に。気にはなるが声をかけないままテレビのバラエティ番組に視線を向ける。特に面白いわけでもないけれど、笑っておく。

(氷砂糖497粒)

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 500文字の心臓第135回競作投稿作。
 〇△△△△

 タイトルの処理を褒めてもらえたので、まぁいいのです。

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Author:こおり
モノカキ時は「氷砂糖」の筆名使用。
息をしたり、寝たり、食べたり、音楽を聴いたり、500文字小説を書いたりしています。
鉄の街出身、晩秋生まれの嘘詠い。

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