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競作『やわらかな鉱物』

『やわらかな鉱物』

「このような鉱物の存在が予測される」
 彼の最後の論文はそう結ばれている。最後の論文だが、彼は亡くなったわけではない。まだ若い彼はその論文を最後に、研究を離れたのだ。
 付き合っていた恋人の家に入る形で結婚し、現在は妻の実家である洋菓子メーカーで次期経営者候補として仕事をしている。彼の仕事は早く的確だと、義理の両親を含め周りの人は皆、口をそろえる。娘にも恵まれ、端から見れば順風満帆といえる。
 彼は頑固だ。自分が正しいと信じることを、滅多なことでは曲げない。その彼が研究を離れたのは「自身は研究者に向いていない」ということを彼が正しいと信じたからだ。堅い意思は曲がらないが、割れる。
 娘の二歳の誕生日。新しい鉱物が発見されたらしいと昔の仲間から連絡をもらう。仕事の合間に学術誌のサイトから該当論文をダウンロードして読んだ。
 夕食では娘の誕生日を祝い、自社のホールケーキが切り分けられた。彼はフォークで中のクリームをぐちゃぐちゃにし、黄桃を取り出す。食べる。甘い。
「おぎょうぎわるーい」
 娘にいわれて「そうだね」と返した彼の瞳は、少し、哀しい色に曇っている。後悔ではなく、罪悪感によって。

(氷砂糖492粒)
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 500文字の心臓第132回競作投稿作。
 〇△△△△△

 たぶん誰にも気付いてもらえなかったけれど、「やわらかな鉱物」←→「堅い意思(石)」……すみません。

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息をしたり、寝たり、食べたり、音楽を聴いたり、500文字小説を書いたりしています。
鉄の街出身、晩秋生まれの嘘詠い。

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