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競作『ひょんの木』

『ひょんの木』

 5秒前。繰り返される音。ひょう、と響く音。
 2分前。木から葉をとる少年。葉を口に当て息を吹きかける。繰り返される音。ひょう、と響く音。
 7日前。街路樹の下に少年とその父親がいて、木から葉を取る父親。葉を口に当て息を吹きかける。ひょう、と響く音。少年にも葉を渡し、にこにこと見る。
 10年前。引っ越してきたばかりの若夫婦が散歩をしている。妻の腹は大きい。街路樹から葉を取る夫。葉を口に当て息を吹きかける。ひょう、と響く音。何事かを夫婦は笑い合う。
 45年前。山を切り崩して宅地造成が進み、道路が整備された。街路樹を植えていく作業員。若い木は町と共に成長するだろう。
 その木は知らない。何も知らない。自らが何故そこにいるのかも、どのような扱いをされているのかも。何処で育ったかも知らないし、その葉の瘤が笛になることも知らない。木には目が無い。耳が無い。触覚も無ければ舌も鼻も無い。木は、ただそこに立ち続けている。町を見守ってなどいない。それは人間様の勝手な思い込みでしかない。
 0秒先。少年はまた葉に息を吹きかける。ひょう、と響く音。木は立っている。少年や町がどうなろうと木の知ることではない。

(氷砂糖496粒)
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 500文字の心臓第127回競作投稿作。
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Author:こおり
モノカキ時は「氷砂糖」の筆名使用。
息をしたり、寝たり、食べたり、音楽を聴いたり、500文字小説を書いたりしています。
鉄の街出身、晩秋生まれの嘘詠い。

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