#パンツの日 企画『わたしはパンツ』

『わたしはパンツ ~オーナーは女子高生~』

 一ヶ月前から、わたしは特別扱いを受けている。
 地味ぃな形で地味ぃな色、特に装飾もないスポーツショーツ、それがわたしだ。数ヶ月前、まだ寒かった頃にオーナーのお母さんがセールでまとめ買いしてきた中の一枚。一ヶ月前までは他のパンツたちと同じ扱いを受けていた。つまり、他の下着たちや服たちと共に全自動洗濯機にポンと入れられて、ぐるぐる回った後でお母さんが干す。半日干されて取り込まれ、畳まれてオーナーの引き出しへポン。
 わたしのオーナーは女子高生。一ヶ月前からオーナーはわたしを手洗いしてくれている。下着用の洗剤を使って、そっと押したり揉んだり、干すときもきちんと陰干し。とても大事に扱ってくれる。わたしだけを。
 オーナーは陸上部に所属している。100メートルの選手だ。わたしは偶然、本当に偶然、この春の最初の試合の時に穿かれていた。小規模な競技会だったけれども、オーナーはその試合で自己タイを出して優勝した。それからだ、わたしが特別扱いを受けるようになったのは。
 高校の陸上部員の春といえば、毎週末のように競技会がある。順位が付く試合だけじゃなく、記録会といって公式記録を認めてもらうための試合なんかも含めて。わたしは毎週穿かれ、オーナーは自己ベストやその付近の記録を出し続けていた。
 ゲン担ぎ。笑う人がいるかもしれないが、オーナーを笑う奴はわたしが許さない。
 今日もわたしは穿かれている。オーナーの動きを邪魔しないように、けれど安心感を与えられる程度には締め付けて、わたしはオーナーのキュッと引き締まったお尻を包む。
 オーナーの体はしなやかに柔らかく、けれど筋肉はたくましい。調子がいいことは直接肌に触れるわたしが一番よく知っている。インターハイへ向かう夏は、もうすぐ。

(こおり734文字)

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ぼんやり考えていること

『信仰』

 神様がいるのかいないのかは、今のところ実生活を送る上ではわりとどうでもいい話で。
 生活費を得るために働いて、余ったお金でおやつとか本とかCDとかたまに服とか買って、寂しかったら知り合いに甘えたり甘えられたりじゃれあったりして、お給料UPを狙って資格の勉強したり、面倒くさいなあと思いながらもご飯作って食べて洗い物して、土日には洗濯機を回して天気悪いなーとか思いながら干して、苦手だけど掃除して、寄ってくる犬を撫でて、そんなのの合間にぼーっとしてると、なんかほんのり幸せだなあってしみじみ。
 順風満帆な人生じゃないけど端々に幸せは転がってて、恵まれてるんだなあなんて思う。世の中の人が不平不満を口にしているのを見るにつけ。不満がないわけじゃないけどさ。
 神様はいるかどうかわからないけれど、何か大きな力みたいなものはあるように感じている。「運が良かった」、その一言で説明がついてしまうジェットコースターみたいな起伏は、正直いらなかったけど、まあ濃密な人生なんじゃない? 悪くは、ない。安全面に配慮されたジェットコースターのレールを設置した誰かがいるんじゃないかって、ときどきふと思うのね。

(こおり494文字)

夢筆記『市場』

『市場』

 魚を売る声が右から左から飛び交う。狭い通路は人が多くいるので進むのに難儀する。右を見ても左を見ても魚屋。裸電球に照らされた手前に傾いた台に、氷とともにキラキラした新鮮そうな魚が並ぶ。黒いエプロンを身に着けたおじさんたちがそれぞれ手に魚を持って威勢のいい声をかけてくる。私にかもしれない。私じゃない誰かにかもしれない。私は人に揉まれながら通路を進む。
 何度ここに来たかわからない。何度も何度もここに来て、そのたびこの通路を進む。一人のときもある。人に手を引かれてのこともある。けれどここがどこなのかはしらない。気付けば魚屋前の通路にいて、いつもこの方向へ進む。この奥にはくつろげるところがある。
 通路の突き当たり、一枚ガラスのドアを開けると、そこは喫茶店のようなバーのような、そんな店だ。入って右手にはカウンター席、左手にはボックス席。ボックス席の壁はこれまた一枚ガラスの窓になっている。ガラスの外には大量の水が流れているので外の様子は、おそらく今が夜なのだろうということと、土砂降りなのだろうということ以外はわからない。今日も雨。ここに来るときはいつも雨だ。今日は一人なのでカウンター席へ向かう。えんじ色のビロードが張られた背の高いスツールに、よいしょ、と座る。目の前には蝶ネクタイ姿の年配のマスターがいて、コップを拭いている。目が合う。にっこりと笑いかけられる。私のほかに二人ほどお客さんがいるけれど、店の中はひどく静かだ。魚を売る声も聞こえず、音楽もかかっていない。マスターは私の手元にコースターを置き、その上に、氷と透明な液体の入ったロックグラスが置かれる。手に取り、口をつける。お酒だと思うけれど、味がわからない。でも、変な安心感がある。帰ってきた、そんな感じの。グラスの中身をもう一口飲む。味はやはりわからない。グラスを置く。目を閉じる。大きく、溜息が漏れた。

(こおり786文字)

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こおり

Author:こおり
モノカキ時は「氷砂糖」の筆名使用。
息をしたり、寝たり、食べたり、音楽を聴いたり、500文字小説を書いたりしています。
鉄の街出身、晩秋生まれの嘘詠い。

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