500文字小説『橋の架かる町』

『橋の架かる町』

 白鷺の町にはたくさんの橋があります。たくさんたくさんあります。
 旅人であるわたしたちは、その橋をひとつひとつ渡りました。
 橋はどれも美しく、わたしたちは互いに写真を撮り合いました。二人で写った写真はありません。残念なことですが、白鷺の町では言葉が通じませんでした。写真を撮ってほしいというたったそれだけの言葉を伝えることができず、仕方なしに私たちは相手の写真を撮りました。
 とても美しい町でした。
 最期の一つの橋を渡り終え、わたしはふと、橋から下を覗いてみました。
 きらきらと星を湛えた銀河がそこにはありました。
「ねえ、見て」
 わたしは相手にも呼びかけ、橋の下を見てもらいました。
「わあ、すごい」
 相手もその光景に圧倒されたようでした。
 渦巻く銀河は流れ流れて天の川になると聞いたことがあります。そしてその対岸にそれぞれ牽牛と織姫がいると。天帝の御心のままに流れる銀河がとても穏やかであるのに、わたしは少し、ふしぎな安堵感を持ちました。

(氷砂糖419粒)

300字SS『貴女が噛んだ』

『貴女が噛んだ』

 指切りのあと、貴女は私の小指を舐めました。その妖艶な赤い唇に視線は釘付けになっており、痛いと思う間もなく小指は噛み切られていました。
 とても美しい光景でした。
 貴女の艶めく唇に絡め取られた小指。貴女は出し入れしながら齧り、食み、咀嚼し、やがて嚥下しました。
「貴方の約束はもう、私だけのものよ」
 そう云って微笑む貴女をとても愛おしく思いました。交わした契りを必ず、と心に強く思いました。もう貴女に夢中でした。
 貴女は狩られました。
 確かに貴女は魔物でした。
 この身を貴女だけに捧げると約束したのに、全てを貴女に喰われることを誓ったのに、貴女は、貴女は。
 指の一本欠けた手を、貴女の骸に添えました。

(氷砂糖298粒)

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テーマ超短編『すてきな二人』

『すてきな二人』

 水男とアリスはとても仲の良いカップルです。
 些細な喧嘩のとき、アリスがマグカップを投げても包丁を持ち出しても、水男は穏やかな表情でアリスを見守ります。水男の体は冷たい水でできていて、投げつかられたマグカップも突き立てられた包丁も意味をなさないので当然のことなのかもしれません。水男とアリスはとても仲の良いカップルです。
 喧嘩のあと、アリスは水男とお風呂に入ります。水男はアリスの体を隅から隅まできれいに洗い、最後にそっと清潔なバスタオルを渡します。アリスはそれで体を拭き、二人は仲直りをします。水男とアリスはとても仲の良いカップルです。
 水男はアリスを抱きしめました。ざぶり。水男の体にアリスの頭が沈みます。ごぼごぼ。ごぼごぼ。アリスはもがき、手足をばたつかせます。水男はアリスの頭を引き上げ、息の荒いアリスにくちづけをします。そしてまた抱きしめました。ざぶり。ざばざばと水男の体が飛び散りますが、当の水男は意に介していません。ざぶざぶ。ばしゃばしゃ。やがてアリスは静かになって床に倒れ込みました。水男はふふっと笑って、ぱしゃりと形を失いました。水男とアリスはとても仲の良いカップルです。

(氷砂糖495粒)

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500文字小説『コンペイトウの響く夜』

『コンペイトウの響く夜』

 銃弾の代わりにコンペイトウを詰めて、夜空へ向かって一発。
 乾いた音。
 雨は上がっていたけれど、雲で覆われて月も星もない、黒。銃口から飛び出したコンペイトウは光りながら高く高く届き、重力に負ける地点ではじけた。
 さらさらと粉々になったコンペイトウは風に流れ、それは空気に溶けた。
 もう一度、銃弾の代わりにコンペイトウを詰めて、一発。
 遠くで別の発砲音が聞こえた。
 あちらでも。
 こちらでも。
 銃を持つ人たちが夜空に向かって打った。それがコンペイトウかどうかはわからない。もしかすると本物の銃弾かもしれない。それを確かめるすべはない。
 連鎖する発砲音、どこからか通報があったのかパトカーのサイレンが聞こえ始めた。
 もう一発打とうとコンペイトウを取り出していたけれど、装填はせず、口へ放り込んだ。
 甘い。
 噛むと、じゃりっと粉々になった。

(氷砂糖367粒)

500文字小説『白い御伽話の夜』

『白い御伽話の夜』

 傷ついて売れ残った金魚を貰い受けた。寝室の窓際に鉢を置いた。
 平凡な文官である。日々はそれなりに忙しく、貴族と民衆の要望の間でだまし絵の如き解決案を作り続ける毎日。上には恵まれていないが下は優秀な者が揃っており、目下の心配事は下の者たちが現状に愛想を尽かして辞めてしまいやしないかということだ。
 金魚は差し込む月明かりに、女性的優美さでゆらりと泳いだ。
 私も疲れていたのだろうと思う。寝台に潜り込む前に、金魚の傍らで物語を紡いだ。不満を比喩に比喩に比喩を重ねた御伽話。いくらなんでも愚痴をそのまま口に出すのは憚られた結果だ。比喩のおかげで原型は留めていない話だが、口に出すと心持ち、胸の重みが軽くなった気がした。
 そんな夜を九十九数え、とっくに金魚の傷は癒えていた。さて寝るかと寝台へ向かおうとすると腕を掴まれる。何事かと振り返れば美しい娘がいた。戸惑う私に金魚ですと名乗った娘は、細い腕を私の首に回した。悪魔か死神かなどと考えながら、それもいいかと唇を寄せ、艶めく夜を過ごした。
 翌日は大層な激務で疲れ果てて帰宅した。早く寝ようと準備を済ませ、今夜の例えを考える。寝室に行くと、金魚は絶えていた。

(氷砂糖500粒)
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こおり

Author:こおり
モノカキ時は「氷砂糖」の筆名使用。
息をしたり、寝たり、食べたり、音楽を聴いたり、500文字小説を書いたりしています。
鉄の街出身、晩秋生まれの嘘詠い。

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