500文字小説『手品』

『手品』

 嘘を書き連ねた紙を用意します。
 折りたたみます。
 折りたたみます。
 折りたたみます。
 この小さな箱に詰めます。
 箱にふたをしてキスをします。
 箱のふたを開けます。
 紙が消えています。
 箱を裏返します。
 地球を折りたたみます。
 折りたたみます。
 折りたたみます。
 箱に詰めます。
 マッチで火をつけます。
 箱は消え、恋人が現れます。
 キスをします。
 私と恋人の他には何もありません。

(氷砂糖190粒)

500文字小説『ひとみ』

『ひとみ』

 幸福の王子の目にはめ込まれていた青い宝石は、貧しい親子の手から宝石商の手に渡り、巡り巡ってある国にありました。
 第一王子の誕生に沸き立っていた国。王は手に入れた大粒の宝石を、王子の冠に飾ることにしました。高い技能を持つ職人が作った冠は、それはそれは美しいものでした。
 王子の目は空と同じくらい青く、父親が退位したのち戴冠した新しい王は、大変優れた先読みの能力を持っていました。
 国が栄えたことは言うまでもありません。

(氷砂糖209粒)

300字SS『いいかげんにして』

『いいかげんにして』

 砂糖でできている彼氏には気を付けて。なかなか面倒臭いんだから。
 蟻を連れていることが多くて、虫嫌いな人だったらまず無理。やってられない。
 日差しが強い日はたまに焦げてる。カラメルみたいなべっこう飴みたいな甘い香りを漂わせるのは、まあ、許そう。
 悪いことばかりではない。それは確かに。キスをした時のあの、口いっぱいに広がる幸福感は、砂糖の彼氏じゃないと得難いものかもしれない。
 一番問題なのはこれからやってくる雨の季節だ。
 マメじゃないのだ。わたしの彼氏は。天気予報が雨を知らせていても、手ぶら。ほらまた雨が降ってきてじんわりと形を失っていく。
 この時期いつも二本の傘を持ち歩かなくちゃならない。

(氷砂糖298粒)

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三題噺『快晴のち雷雨の予報』

『快晴のち雷雨の予報』

 広場では古本市がひらかれています。
 大人になりそこねた少年少女は、年をとると本になります。本になって読まれて、捨てる代わりに古本として売られて、また誰かの手に渡り、読まれて、売られて、繰り返して。誰かが読むに堪えた本というのは面白さの証明になり、手あかのついたよれよれの本に高い値段がついているというのもよくあることです。古本市とはそういう本を売買する場所です。
 一人の少年が一冊を手に取りました。ぱらぱらとめくり、苦虫をかみつぶしたような表情。
「この程度で」
 そうつぶやくと、少年は本になってしまいました。
 新品のきれいな本は珍しさもあり目を惹き、幾人かが手に取ります。しかし皆、またもとの場所に置いてしまいます。
 少年は明日、大人になるはずでした。
 少年にはすでに、大人になれる未来がありました。
 本になった人間がまた人間に戻ったという話は聞いたことがありません。
 天気予報は当たりそうで、店主たちは片づけを始めます。売れ残りの本たちは在庫として箱に納められてゆきます。古本屋の本棚に並べられるものもありますが、大半は次の古本市まで箱の中です。

(氷砂糖475粒)

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500文字小説『ご飯生産の日々』

『ご飯生産の日々』

 なんだかよくわからないケモノと暮らしている。
 そいつはいつの間にかうちに居ついていて、あまつさえ私の部屋に入り浸るようになった。もこもこしていて、手のひらに乗るくらい小さくて、黒いつぶらな瞳で、ふわふわのしっぽで。ネットでこいつが何なのかを調べるためにいろんな語句で検索してみたけれど、似たようなやつさえ見つからない。
 こいつには名前を付けていなくて、けれどそれで困ることはない。他人に説明することもないので。
 体臭もなく何かを食べている風でもないので、どういう仕組みなんだろうと思っていたが、あるとき突然判明した。学生時代に使っていた国語辞典をむさぼっていたのだ。むさぼっていたといっても紙を食べ散らかしていたわけでなく、辞書からいくつかの単語が消えていた。空白のページまで。もうこの辞書は役に立たない。
 もしかして、と思って日記帳の過去のページをめくってみて、やられた、と思った。単語がいくつか抜けたページがあり、ほぼ空白のページがあった。
 怒鳴ってやろうかとそいつを見ると、ペンを持つ右手にじゃれてきてしっぽを振った。あんまり可愛くて怒る気は失せた。
 でも、私は日記を書くことをやめない。

(氷砂糖498粒)
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こおり

Author:こおり
モノカキ時は「氷砂糖」の筆名使用。
息をしたり、寝たり、食べたり、音楽を聴いたり、500文字小説を書いたりしています。
鉄の街出身、晩秋生まれの嘘詠い。

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