500文字小説『王と占い師』

『王と占い師』

 王宮に召し上げられた占い師はずっと沈黙を続けていました。
 王はいろいろなことを訊きたかったのですが、占い師はただ黙っているだけで、帰してほしいという言葉さえも発しません。
 大臣の一人が占い師の胸ぐらを掴み、不敬である、と言いましたが、王は慌てて大臣を止めました。
「そなたが沈黙を貫くのは何か意図があってのことであろう」
 王は続けます。
「だが、そなたが本物ならば、他の国に渡られては困る。解るであろう?」
 占い師には召使いがつけられ、宮殿の中に一室が用意されました。初めのうち頻繁に占い師のもとへ大臣たちが訪れましたが、言葉を話さない占い師を怒鳴りつけるのも疲れるのか、一年の後には王が訪れるのみになりました。
 王は占い師の前でさまざまな話をしました。とても私的な話に及ぶこともありました。王は話を終えると穏やかな顔で部屋を去りました。それは毎晩続きました。
 王は密偵を使って声を潰す薬を手に入れていました。
「飲んでも飲まなくても構わぬ」
 占い師に差し出しながら王は言います。
「飲めばそなたは自由である」
 占い師は薬を飲むことなく、一生を宮殿で過ごしたと言います。国は静かながらも平穏に続いています。

(氷砂糖500粒)

300字SS『左手のピンキーリング』

『左手のピンキーリング』

 貴方は私を飾る。
 初めはネックレスだった。可愛らしいハートチャームの。私はそれを着けてデートに行く。
 寒い誕生日にコートをくれた。キャメル色のロングコート。私はそれを着てデートに行く。
 春には長い髪を留めるバレッタを。夏にはカラフルな水着を。秋には柔らかな手袋を。
 次第に増え、身に着けるものはほとんどが贈り物になった。
 貴方の望むように私はそれらで私を飾りデートに行く。貴方との、ではなく。貴方とのではなく。
 飾った私が誰かと遊んだ後。
 貴方の隣で、貴方から贈られたものは何もないシーツの間。飾らない私に触れる貴方はとても満足そう。いつもそう。
 小指を飾る小さな指輪だけが、私が私の為に選んだ物。

(氷砂糖300粒)

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500文字小説『飲めなかったお酒』

『飲めなかったお酒』

 近頃、眠ってしまうと毎晩のように連れ出されているらしい。
 朝に目を覚ましてもいまいち疲労感が消えていないなとは思っていた。いびきでもかいているのかと妻に尋ねると、いつも一緒にあのお店に行っているじゃない、と返ってきて驚いたのだ。
 その店は僕が前を通るといつも閉まっている。外に掲げられたままのメニューを見る限り、洋風居酒屋といった感じで、何年か前からいつか二人で行ってみたいね、と話していたのだ。
「あの店、変なのよ。眠っている人が一緒じゃないと入れないの」
 何をきっかけに妻がそれを知ったのかは知らないし、どうやって僕を連れて行っているのかもわからないが、妻はすっかりその店がお気に入りらしい。
「カクテルなんかもあって、マスターがシェーカーを振ってくれるのよ」
 あなたも飲んだじゃない、と妻が言うが、その店に行くとき僕は眠っているから記憶にない。
「そうね、せっかくのデートだったのに楽しんだのは私だけだったわね」
 その晩、妻は日が落ちるとともに寝入ってしまった。連れて行ってね、と言い残して。
 さて。
 どうやって妻をその店まで連れて行けばいいのか皆目見当もつかない。

(氷砂糖484粒)

第153回競作、選評

 第153回競作『P』

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△<P4>(葉原あきよ)
> 休み時間のたびに、

軽やかでいいと思いました。


◎<P5>(脳内亭)
> 広大な綿花畑の中を汽車が走る。

元ネタがあるのかどうか知らない(調べないものぐさ)のですが、
一つの音楽に関するエピソードとして上質だと思いました。

どうしてもマッチしにくいアルファベット1文字のタイトルを
本筋から切り離してミュージシャンのミドルネームを持ってきたところも
思い切っていてよいと思います。

今回はタイトルのせいか「無理矢理だなあ」と感じる作品が多かったのですが
一つの文芸作品として読ませることはとても大事に思います。
文句なしの特選。


×<P19>(はやみかつとし)
>チョット、

なんか逆選票欲しそうだったので。
他に逆選に推したい作品も思いつかなかったので。

300字SS『氷中炎』

『氷中炎』

 氷中花の花の代わりに炎を閉じ込めたものである。
 作り方は通常の氷中花とそう変わらない。気泡が入らないようにゆっくりと凍らせるところも同じである。
 閉じ込める炎は紙マッチを用いる。擦って上がった炎を水中に沈めると、通常炎は消えてしまう。しかし稀にそのまま燃え続けるマッチがある。たいていは哀しみを燃やすタイプの紙マッチである。街角で手に入ることがあるが、流通経路は不明である。見た目は普通の紙マッチと変わらないので試してみないことには判らないのが難点である。
 冷たい炎はしんしんと室内を冷やしてしまうので、通常は屋外で灯りとして使われる。
 その灯りを見ると、なぜか人恋しくなるのだという。

(氷砂糖294粒)

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こおり

Author:こおり
モノカキ時は「氷砂糖」の筆名使用。
息をしたり、寝たり、食べたり、音楽を聴いたり、500文字小説を書いたりしています。
鉄の街出身、晩秋生まれの嘘詠い。

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